ハートフル自転車便

ハートフル自転車便

高齢者が孤立しない地域社会を目指して

社会福祉法人AJU自立の家
ほかっと軒:加藤正志

私たちが事業を行う名古屋市昭和区でも、支援が必要だが、支援に結びつかない状態にいる高齢者は数多くいます。そういった高齢者からいわゆる孤独死が発生しています。こうした独居高齢者が孤独死することなく、何らかの支援を受けながら地域で生活を続けるにはどうしたらよいでしょうか?

そこで、私たちは高齢者のお宅を訪問し、野菜や食料品を配ることに注目しました。私たちの法人には、「NPO法人セカンドハーベスト名古屋」という団体から定期的に野菜が届けられます。このセカンドハーベストとは、パッケージに傷が付いてしまう等、市場に出回ることが出来なくなった食料品を、市場とは別の流通経路を開拓することで、ただ廃棄するので無く何らかの形で再利用できないかという思いから活動を始めた団体です。

私たちは、せっかく頂いた野菜を有効に活用したいと考えています。具体的には、セカンドハーベストから頂いた野菜を高齢者のお宅へ定期的にお持ちします。定期的に顔出しをする中で、孤立した高齢者の感情を解きほぐし、信頼関係を作っていきます。困ったことがあれば何でも話し合うことができる関係を作り出した上で、最終的には適切なサービス・支援が提供出来るようになり、しいては、施設に入らなくても地域社会で生活していただけるようにするものです。

これから、私たちが実際に野菜を配り始めている高齢者の実例を挙げたいと思います。私たちは今、90歳代独居の女性のお宅に週に1回野菜を届けています。この方は、一応要支援1の認定は受けていますが、介護保険のサービスは何も使っていません。今年の夏までお一人で公共交通機関を利用して病院まで受診したり、近所のスーパーまで買い物にお出かけになっていました。

しかし、肝臓に大きな膿の塊が見つかり、病院に入院・手術されました。一ヶ月で退院できたのですが、そのことがよほどショックだったようで、一人でどこへでも出かけられていた方が、退院後は近場へもお出かけにならなくなりました。実際、ちょっと出かけるとめまいを覚えるため、怖くて外出できないとのことでした。

ご家族は、娘さんが一人(他県在住、60代)と妹さんが一人(市内他区在住、80代)がおり、この二人が定期的に様子を見に来ていますが、お二人とも頻繁に来ることは難しい状態です。ご家族もデイサービスを使ったり、ヘルパーさんに家事を頼んでくれないかと思っていますが、当の本人は「人に頼むと、ますます動けなくなってしまいそう」との思いから、福祉サービスの利用を拒否し続けています。

そこで、私たちは週に一回野菜をお持ちすることにしました。野菜をお持ちするという理由があれば、その方も私たちを迎え入れてくれます。

その際に、近況やお困りごとを確認しています。今でも、サービスには結びついていませんが、訪問するとお茶を出してくださり、昔話や最近の病状について話してくださいます。そうすることで、どういう生活をしているか、概ね把握できるようになりました。「ヘルパーさんにはこういったことをお願いしてくれるだろうな」とか、「何処其処のデイサービスならこの人には向いているだろうな」といったことをアセスメントしながら日々接しています。

この方はたまたまわたしたちの法人に縁深い方だったので、病状が悪化したという情報がすぐに入りし、すぐの対応も検討できましたが、そうでない方も私たちの地域には数多くいらっしゃいます。介護保険の利用者は年々増加していますが、実は何のサービスともむすびついていない高齢者の方が多数です。そこで、みなさんの力をお借りしたいのです。皆さんの協力を得ながら、地域の見回りが出来て、一人で悩む高齢者を一人でも減らしていければと考えています。

それに、お年寄りは若い人が行くと顔の表情が和らぎます。普段は仏頂面をしている高齢者も、若い人が訪問すると心を開き、喜んで迎え入れてくれます。若い皆さんに協力をお願いしたいのもこういった理由からです。訪問し、傾聴することを通じてひとり暮らしの高齢者が社会とつながるひとつのきっかけになってくれませんでしょうか。

さらには、高齢者が、食べ物を捨てるのはもったいない、自分たちが大切にしようという気持ちで野菜を受取っていただくことで、有効活用しているのだという思いを持ち、リサイクル社会に参画・貢献する機会を作り出すことを目指します。そういう意味では、学生のボランティアさんが自転車で回るということに意味を見出しいます。ですので、このボランティア活動を私たちは「ハートフル自転車便」と呼んでいます。

自分の社会的な役割を喪失することで、高齢者は同時に自信や活力を見失っています。自分は人の役に立つのだという気持ちを持ち、地域社会でいきいきと暮らしていけるような福祉を創造したいです。私たちは、ただ事業をするだけではなく、そういうサイクルを創造したいと思っており、そのためにはボランティアの輪を広げていくことが不可欠だと考えております。

私たちの活動に賛同して、協力してもいいと思った方は、ほかっと軒まで気軽にお問い合わせ下さい。皆さんの協力で地域を活性化し、新しい高齢者の福祉を創っていくことができると思います。宜しくお願いします。